信州かくれ里 伊那山荘

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2013年 04月 02日

貧乏神と雪女

漬物のお裾分けを持って来た美照尼さんが、爺の家の縁側に座りこみ、村で仕入れてきた噂話を身振り手振りよく語り始めました。
「金吾さんは正直者で働き者、男前で、それでいて両親の資産を、そっくり引き継いだばかりの、お金持ちの独り者。だから村中の娘っ子がお熱を上げているのに相手にしないで、隣村の神社の村祭りで知り合った娘にほれ込んで嫁にもらったの。貧乏な家に育ったようだけど、それは清楚で優しく、近在では評判の美人だったわ。富も名声もそして美女まで得た金吾さんは、もう有頂天で鼻高々よ。
ところが、どうしたわけか、その嫁が病で寝込み、嵐で田畑が流される不幸続きで収入が無くなってしまったんだって。それでも、今までの蓄えで、何とかしのいで来たけれど、それも無くなり、とうとう家、屋敷を切り売りしたの。それでも良くならないで、今や、無一文、途方に暮れているんだって。まるで貧乏神に取り憑かれたみたい」
村中の噂になっているようだ。
「貧乏神ならここにもおるでよ」
美照尼さんはクワバラクワバラと笑いながら帰っていきました。

爺は漬物を頬張りながら、裏の山神様を訪ねました。神のことは神様に聞くのがいちばんです。
今日もまた、石の山神様は雪に埋もれていました。雪をどけながら、
「なあ、貧乏神という神さんは、本当におるんかい?」
と訊きました。
「そりゃあおるさ。死神、疫病神を同伴する厄介なのもおる。神仲間では嫌われ者じゃ」
爺は金吾さんは知りませんが、嫁さんがかわいそうでなりません。きっと、両親の助けになると信じて資産家に嫁入りしたのでしょう。歯を食いしばり今を我慢している嫁さんを想うと泣けてきます。
爺の心を読んだ山神様は言いました。
「爺が、ここに越して来たとき、蔵に狐の婆さんが棲んでおって、亡くなるときお前、手厚く葬っておったな」
「ああ、嫁の白狐と上手くいかないで家を出て、そこの蔵に棲んでおった。最後を看取ったのは爺だった。今際に何かを言いながら、ヒョウタンをくれた」
「あれは、力のあるヒョウタンだ」
「ヒョウタンからいろいろな物が出て、長者になる昔話? まさか、あのヒョウタンが?」
「出て来るのではなくて、吸い込むのじゃよ。使い方を聞いておらんのか。あれはな、ギャーテーギャーテーパラソウギャウテー、ひさごに入れと唱えると何でも吸い込むのじゃよ」
「出して長者なら、吸って貧乏か」
「バカタレが、助けたかったら頭を使え」

爺は、美照尼さんに金吾さんの家に連れていってもらいました。爺の知る金吾さんの家は大きな豪農の屋敷でしたが、訪ねたのは裏の納屋の方でした。
暗い土間に、直接むしろが敷かれ、そこに嫁さんが横になって、目を閉じています。
「こんな女を嫁にもらったばっかりに…」
酷い言葉をはく金吾さんを美照尼さんが叱りましたが、聞く耳をもたないでドブロクを食らい続けます。
突然、爺が、「やい、貧乏神おるんかね」と叫びました。
金吾さんはキョトンとしています。嫁さんの目から涙が溢れ出ました。自分が言われたと思ったようです。ずっと、あびせられてきた言葉だったのです。
爺は唱えました。まだ試していませんが、いちかばちです。
「貧乏神、ギャーテーギャーテーパラソウギャウテー、ひさごに入れ」
大声でした。静まった納屋の中、ドサッと貧乏神がヒョウタンに入った音がしました。爺はあわてて、ふたを閉めました。
一瞬の間があり、なんとまあ、臥せっていた嫁さんが立ち上がり働き始めたのです。生き生きとした嫁さんの顔は実に美しく、金吾さんがほれたのも無理ありません。
どうやら、これで、金吾さんも立ち直れそうですが、酷い言葉を浴びせた手前、もう嫁さんには頭が上がらないはずです。
さて、貧乏神を貰い受けてしまったのですから、困ったのは爺です。ふたを開けたら貧乏神に取り憑かれてしまいます。貧乏神の入ったヒョウタンを、桃の木の枝にぶら下げて、一晩考えることにしました。

翌日、美照尼さんからもらった漬物を、石の山神様に備えながら、雪女に合わせて欲しいと、お願いしました。
「今年のあの娘は、なぜか忙しがっておる。まあ、わしが頼めば来てくれるだろう。あしたはドラ焼きを備えろうよ、それが条件だ」
爺が了解すると、青空が一点にわかに掻き曇り、雪が降り始め一瞬であたりを雪野原に変えてしまいました。そして、豪華絢爛たる衣装の美しい顔立ちをした雪女が現れました。

「何だ、爺さんかつまらない。山神もなんと、つまらない人間の頼みを聞くものよ」
雪女がヒヤッとする冷たい蔑みの目で、見下ろしたのを逃さず、爺はヒョウタンのふたを開けました。
するとどうでしょう。雪女の衣装が見る見るうちに廃れ、そして雪が小降りになりました。雪女も恥ずかしがって、山の上へと去って行きました。

貧乏神が雪女に取りついてしまったのです。
これで、今年の雪の峠は越えたかもしれません。
「爺よ、今年の夏、水不足になったらどうするつもりだ」
山神様が心配しました。
「しかし、まあ、今年は十分すぎるほど降ったから、良いとするか。よくやった兄弟」
爺は山神様から褒められ、ヒョウタンをなでなでしながら帰っていきました。
                         (終わり)




本性を見てしまった嫁さんが、金吾を許せるかどうかが気にかかる。これは二人に任せるしかないと本文からは削除した。富や名誉や美人を得て威張っていても、次の瞬間は落ち込む瀬戸際に立っている。何もぎりぎりまでしないで、自分のやるべきことを終えたら、さっさと引っ込むことが肝心と爺は言う。弓をいっぱい引いたら後は放つだけ、コップにいっぱい酒を注いだら、後はこぼれるだけだ。
じゃあどうすれば良いんだよ。
器を大きくすれば良い。
金吾も修羅場で嫁に毒づいてしまった。もう一回り大きな人は、病気で苦しむ人や、災難にあった人、不運な人を見て、鞭打つ言葉ははかないものよ。
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by okasusumu | 2013-04-02 13:45


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