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信州かくれ里 伊那山荘

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2011年 08月 23日

屋号は「わぐね」

 宅配便は届くが、郵便物は届いたことがない。住所番地をを言って分るようなところでないし、住人が地元の人に知られていない。おまけに山荘主人が持っている携帯電話はソフトバンクで圏外だ。だから訪れる人は困ってしまう。最初にレンガを運んできた西濃運輸の人は鹿柵(?)を乗り越えて探したらしい。「わぐね」と地元の人たちが言う屋号を言うと、「何でそれを言わないの」と叱られてしまった。そんなこと言われても、ここに来るまで「屋号」など気にしたこともなかったのだ。
懸賞小説に投稿中の小説に屋号に触れた部分がある。夏休みにここに住む幸太郎のもとに孫の比呂と美花がやって来て、同じく近くの祖母の家にやって来ていたさくらと横井戸に入り、異次元冒険をする内容の話で、場面は横井戸の中の石像を知る祖父、幸太郎の薀蓄である。

  ………

 幸太郎は一瞬考え込んで、そして真面目な顔をして言った。
「誰が、いつの時代に設置したか分からんが、あの石の神様は、この先は行くなというメッセージだな」
比呂とさくらは顔を見合わせ、黙った。
「じいじちゃん、怖い話はだめですよ」
美花が幸太郎にしがみついた。幸太郎は美花を抱き上げて、ひざの上に座らせて、また話し始めた。
「さくら君の家はサイトという屋号と言ったね」
「はいそうです。小松なのになぜサイトなんですか?」
「ここはワグネというらしい。土地の人はみんなそう呼ぶ」
「ワグネね」
「土地の誰に聞いても意味はわからない。その意味が今ひらめいたよ」
二人の子供は驚いた。
「古事記という日本神話の書かれた古い書物を知っているかい」
と言いながら祖父は本棚から難しそうな本を数冊引っ張り出した。
「この神話の中に、日本の国土を創り、神々を創ったイザナギとイザナミという神様の話がある。イザナミは火の神を生んで火傷して死に、黄泉つまり死の国へ行ってしまう」
「いやだあ、リアルだわ」
「悲しんだ夫のイザナギは妻を追って冥界にまで行くのだが、そこで見た妻はウジで覆われていた」
美花がもうやめてと耳を塞いだ。

   四

「死んでしまったのだからウジも湧くさ。それを見たイザナギは百年の恋も一気に冷めて、逃げ出した。妻のイザナミは、見られたくないところを見られ、その挙句、驚かれ、逃げられる。恥をかかされたと怒るのも無理はない。手下を使って追っかける。最後、イザナギは大きな岩を置いて道を塞いで、ようやく逃げ切ったという話だ」
「その話とサイトのおばあちゃんと関係があるの」
「大岩を置いて塞いだと言ったが、その塞いだ岩が神になる。ふさぐ戸神、漢字で書くと塞戸でサイトだ」
「へえー。神様なんだ、なるほど。じゃあワグネは」
「賽の神は道祖神でもあって、集落の出入り口、境に置かれるが普通で、そこまでが集落の枠内ということだろう。ワクナイ、ワクネエ、ワクネ、ワグネと変化した」
「頭いい。比呂君のおじいさんすごい」

by okasusumu | 2011-08-23 10:15 | 山荘概要


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