信州かくれ里 伊那山荘

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2013年 02月 02日

化け物退治


秋祭りのドンドーン、ドンドンと威勢のよい太鼓の音が聞こえてきます。
鎮守の森には豊作を祝うのぼりが風にはためいて賑やかです。
けれども、いつも池の中で優雅にすごす鯉たちに元気がありません。むっつりとして、押し黙っています。
夜が開け、明るくなるたびに子供たちが少なくなっています。昨夜も「油断してはダメよ」と言い聞かせたばかりです。
一番元気に返事をした子の姿がこの朝、見当たりません。
原因は寝静まった夜中に忍び寄り、こっそり手をいれ子供たちをさらってゆく、恐ろしい化け物です。
池中の鯉が寄り合いをしましたが、いつも、スタイルや化粧ばかり考えている鯉たちに良い知恵は出ません。ある鯉が言いました。
「化け物に鈴をつけたら良い」
化け物が近づくのがわかれば用心できるからです。出来ない相談です。鈴付に挑戦できる勇気ある鯉などどこにもいないからです。みんな口先ばかりで調子が良いのです。
「だったらカエルさんに教えてもらったら?」
隅っこで小さくなっていたブチが言いました。
ブチは体が小さく、いろんな色が混ざって醜いと、いつもいじめられ、無視されて、遊び相手はカエルやイモリばかりでした。
「カエルさんなら、化け物が近づくのが、わかるから」
「ふん」
みんなはブチの意見など聞きたくないのですが、ほかに自分たちを守る知恵がありません。
「やってみるか」
長老の一言で寄り合いは終わりました。

美しく、優雅で上品な鯉はカエルを不恰好な下品でのろまな変な奴と見下しています。
カエルもそんな鯉たちを、思い込みの激しい世間知らずと、いつもは相手にしませんでしたが友達のブチに頼まれては、いやとは言えません。その夜から、化け物が近づくと大きな声で「ケロケロ」と大きな声で危険を知らせました。
ブチの作戦は成功しました。
池に来ても収穫のない日が続いた化け物は次第に来なくなりました。うるさいカエルにもうんざりしたのです。
これで鯉たちは一安心、池の中に平和が訪れて子供たちは次第に大きくなってゆきました。
池の横の桃の葉がいろづき、池の水面にひらひらと静かに散る季節になりました。いったん苦しみが去ると、つらかった思いを、鯉たちはきれいに忘れてしまいました。
カエルたちはブチに別れを告げて去り、静かな夜が訪れました。
そして、再び化け物がやってきました。子供が日に日に減ってゆきます。
また寄り合いをして、対策を考えましたが、良い考えは出てきません。でも、ブチに任せることだけは決まりました。長老は、
「美しさ、かわいさでよそ様を楽しませることが出来ないお前の使命だ」というのです。ブチはじっとたえました。
秋はまたたく間に行き、池に薄氷がはりました。これからは氷が張っては、溶けるを繰りかえし、だんだん寒くなっていきます。おめかしに余念がない鯉たちは、水面に浮かぶ紅葉をぬって泳ぎます。とても、優雅です。ブチは水面に落ちてきた枯葉をせっせと一箇所に集めました。

雪が降り、冬がやってきました。ブチが集めた枯葉の上にも雪が積もり、島のようになりました。暖かい日、雪は溶け、島は氷の塊になりました。
この間にも子供たちは化け物に襲われ、ブチは「役立たず、お前が食べられてしまえ」とののしられ続けました。氷の塊になった島に雪が積もり、島はだんだん大きくなり、とうとう池の淵と繋がりました。
池の水面に大きなお月様が浮かぶある夜のことです。ブチは優雅に泳ぎ回りました。ほかの鯉たちは水の冷たさに身動きが取れません。
この日も散々ののしられました。誰もかばってくれません。
「もうどうでもいいや」
池のお月様が、ブチの泳ぎで揺らめいています。その時、ブチは忍び寄る化け物を意識していました。化け物がブチを狙っています。
何を思ったか、島に近づいたブチは、化け物の前で飛び跳ねました。意表をつかれた化け物は、ブチを捕まえるようと、とっさに手を伸ばし、島に足をかけました。化け物の爪が一瞬月の光に怪しくひかり、そしてブチの体に突き刺さりました。
ブチが悲鳴を上げた瞬間、化け物も大きな声をはりあげました。島が割れ、化け物は池の中に落ちたのです。
化け物は狸でした。池の水はつめたく、狸はもがく事もなく、氷付けになってしまいました。
いまわしい夜が明け、何事もなかったように鯉たちは、明るい陽射しの中、優雅に泳ぎまわります。でも、ブチの姿はどこにも見当たりません。   

                      (おわり)

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by okasusumu | 2013-02-02 13:05