信州かくれ里 伊那山荘

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2016年 10月 17日

書籍

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by okasusumu | 2016-10-17 10:18
2013年 10月 02日

財宝を掘り当てた人

五日前の真夜中のこと、足元に立つ観音様に気がつき、爺は目を覚ましました。
観音様はこうおっしゃいます。
「爺よ、町に行って駅前にある旅館の前で待ちなさい。爺の夢が向こうからやってきます」
わくわくする言葉です。
その日は朝から雪が降り続き、止みそうにありません。
「これでは、町に出かけられんな。観音様の言いつけだが、明日にしよう」

その晩、爺が眠りに落ちると再び観音様が現れ、昨夜と同じことをおっしゃいます。
「爺よ、町に行って駅前にある旅館の前で待ちなさい。爺の夢が向こうからやってきます」
その日は良く晴れていました。ところが道は雪解けでぬかるんで、まるで田んぼのようです。
「これでは町まで行くのは難儀じゃな。観音様の言いつけだが、明日にしよう」
爺は、その晩も観音様の夢を見ました。観音様に同じことを言われました。

観音様のお言葉ですが、三度も言われると、ありがたみが薄れます。しょせん夢まぼろしの夢なのか、それともお告げなのか、悩んだ爺は、裏山の山神様に相談をしました。
「あんたはアホか。観音様のことをライバルの山神に聞くな。バカたれが」
爺は、山神様の不機嫌さを、「やめとけ」と勝手に思い込み、その日も町には出かけませんでした。
午後のことです。光が雪の上ではねています。ふと、湖の方を見ると、美照尼さんの庵の手前、春になればルピナスの咲く丘で一人の男が穴を掘っています。見知らぬ人です。
「何をしてるだに」
「穴を掘ってるだに」
「それは見ればわかるだに。なんで穴なんど」
「それが…」
男は町からやって来ていました。昨夜のこと、観音様が足元に立って、長谷隠れ里の春になればルピナスが咲く丘を掘れば、幸運が舞い込むと、告げられたのだそうです。似た話に爺は「あんれまあ」とぎくりとしました。どうやら、ここがお告げの地であるのは間違いないようですが、口にはしませんでした。
掘り進めるうちに、シャベルが箱のようなものに当たりました。そして男が掘り出した箱から金銀財宝がこぼれ落ちました。まるで「花咲爺さん」のここ掘れワンワンです。正夢だったのです。
その夜、爺は観音様を待ちました。でも夜明けになっても枕元に観音様が現れることはありませんでした。興奮して眠れません。寝てないのですから夢を見ることはありません。
その日は雪になりました。爺は観音様の言葉を思い出し、雪の中、駅前に行き旅館の前に立ち、待ちました。日が落ち、暗くなっても誰もやってきません。町の人たちはうろんな目で爺を見やって、足早に遠ざかっていきます。
大損をした気分の爺は、山神様に相談しました。この神様、悩める人を突き放します。
「そう落ち込みなさんな。あんたは危険をかえりみず、夢を追う男じゃないんだよ。いい爺だが金は寄ってこん。良いではないか」
頬に冷たいものが触れました。爺は空を見上げ「また降り出したか、ほんじゃまたな」と山神様の雪囲いをしっかり直し、家に帰って行きました。
                              (終わり)

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by okasusumu | 2013-10-02 13:36
2013年 05月 02日

強欲男と貫太郎一家

ヒョウタンの吸い込む力には爺も驚きました。でも、この話題は尾ひれが付いた噂になって広がりそうです。放置して、良からぬことが起こってはかないません。美照尼さんの口止めはしましたが、問題はヒョウタンに助けられた金吾さんと嫁さんです。金吾さんの口は軽そうです。

案の定、金吾さんが、貧乏神から開放され、落ち着いた頃、噂が広がりました。噂話をばかばかしいと思う人の9倍は信ずる人がいて、爺の家は見せてくれ、譲って欲しいという客が絶えません。玄関の土間に、ぶら下げてあるヒョウタンは誰にでも見せましたが、爺に譲る気持ちはさらさらありません。
そんなある日、近在一と評判の業欲男が、儲け話を持ってやって来ました。
「ヒョウタンを使って商売を一緒にやろう」
爺は断りました。強欲男は壁にぶら下がったヒョウタンを見て、なぜか不適に笑って、帰っていきました。
その日、村中が寝静まった夜更け、爺の家の玄関の鍵を壊して泥棒が入りました。
「泥棒さんは、何か置いていってくれたかな」
爺はのんきそのものです。盗られて困るものはありません。

次の日、天竜川の堰堤を歩く一人の男がおりました。
まんまとヒョウタンを手に入れた強欲男です。
「うっひっひっ。早速これで一儲けしてやるぞ。うっひゃっ、ひゃあー」
何をたくらんだか、近くの伊那の貫太郎一家に跳びこみました。
貫太郎一家は、縁日に屋台や露店を出店したり、大道芸人を派遣したりする的屋稼業で、このあたり一番の大道商人です。親方の貫太郎さんは、貯めすぎて、心配で眠れない日が続いているほどのお金持ちです。
「おめえか、不思議なヒョウタンを持っているてぇのは」
不機嫌に親方がそう尋ねると、この強欲男はペコペコして、
「へい、さようで、ごぜえますだ。親分が面白くないと思うものや、人、神様、病気なんでも消してお目にかけます。その代わり、うまくいったら、その、ご褒美をたんまりと戴きたいのですが。へっへっへ」
親方はそれを聞いて、
「なに?病気も神様も?このバチ当たりめが。まあ良い。本当は眠れるようにして欲しいがそれは無理だべ、原因がわからんで」
「そんなの簡単だべ、親方のお宝をそっくり吸い込めば良いだに」
「バカヤロー、帰りやがれ」
親方は怒ってしまいました。
「あれまあ、冗談だに。ほかに悩み事はなかんべか」
怒りを抑えて、親方は考えていました。そして、小さな声で恥ずかしそうに言いました。
「実はな、1週間ほど前から尻にでかい出来物ができて、これが痛いの何の、これが寝不足の原因だ。消してくれたら、礼は思いのままだ」
あたりをはばかるように、キョロキョロと見回し、そして望みを伝えました。

強欲男は大喜びです。
「へい、かしこまりました。じゃあ、親方、尻を出しておくんなせぇ」
「なにお、人前で尻など出せるか。俺は恥ずかしがり屋なんだ」
すごい権幕で怒鳴ります。
「見せてくんなきゃ、取りようがないずらー」
「そりゃあそうだな。だが、うそをついたら、ただではおかねえから、覚悟しやがれ」
と言って、親方は尻をパッと出し、強欲男の前に突き出しました。
すぐさま強欲男は叫びました。
「できものよ、パラソウギャーテーひさごにはいれ」
噂どおりに唱えました。静かになりました。一家の連中が面白がって覗いています。
ところが、何の変化もありません。大きなできものは、親方の尻に鎮座しております。
「おかしいな、間違いはないはずだ」
もう一度、唱えました。
「できものよ、ギャーテーパラソウギャーテーひさごにはいれ」
何度唱えても、できものは尻にそのまま残っています。
恥ずかしがり屋の、親分の顔はだんだん赤く膨れ上がり、怒りが加わって、まるで赤鬼のようになりました。

昼下がりの縁側で、どこから聞いて来たか、町の噂を美照尼さんが面白おかしく語ります。
「あの強欲男、すっかり懲りたようよ。それにしても、なぜ、吸い込まなかったの?」
「そりゃあ、無理だべ。普通のヒョウタンだ。昨日も一つなくなっていたな、大怪我しなきゃ良いが」
                   (おわり)   

More大事なものが価値あるものじゃが
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by okasusumu | 2013-05-02 13:49
2013年 04月 02日

亡霊とおっぱい

珍しく電話が鳴りました。
「ちょっと来てくれない」
美照尼さんです。いつもでしたら、噂話を持って来ては、縁側に腰を下ろし長話をして帰るのに、今日は違いました。
「なんだべか」
首をかしげながら、爺は業務用冷凍コロッケを持って美照尼さんの庵に出かけました。もらい物ですが、油で揚げる料理は苦手です。お土産にちょうど良い物がありました。
庵に村の総代さんと隣組長さんがかしこまって座っていました。庵で顔を合わせるのは初めてです。
二人の話は、村はずれに出た化け物に、与一さんが家から追いだされたというものでした。
「へえ、お化けね」
「続きがあるのよ。それを聞いた村の若い衆二人が面白がって、とっちめてやると与一さんの家に出かけたの」
美照尼さんがすでに聞いていた話を、かいつまんで語ります。
「ところが、翌朝帰ってきた二人は腑抜け状態だったの。だらしがねぇと、昨夜とは別の若い衆が三人出かけて行ったんだって」
それが、さっき戻って来た。この三人も腑抜けになっていたと隣組長が話を続けました。
「それがな、 何を言っているのか、さっぱしわかんねぇし、眼も焦点が合っていねえ、昨日の二人なんぞ、昼間は寝たきり、夜になったら何かに憑かれたようにして、出かけると言い出して、家族は困って、大黒柱に縛りつけて置いたらしいずら。村の若い衆五人が腑抜けにされてしまって、みんなで相談して庵主さんにお願えするべぇとなったで」
「ほら、そんなお話があったでしょう。お経を体中に書いて助かった」
美照尼さんは、みなさんは、それを思い出したらしいと言い何故かうつむいた。
「書き忘れた耳を、持って行かれた話かね?じゃあ、まさしく庵主さまの出番だな」
「それがね、私、お化けは苦手なの。だから私に代わって頼まれて、お願い」
若い衆の体にお経を書くだけで、お化けに会うわけじゃなかんべえ、と爺が諭すと
「そうだけど、お化けと聞いただけで手が震えて、お経どころじゃないのよ」
「そんなんで、よくここで一人暮らしができるもんだなや」
「普通、お化けなんか出ないわよ」
「あれ、爺の方はお化けだらけずら。悪い奴はおらんがな」
「それを知っているから頼んでいるの。どうも、そのお化け美人らしいわよ。若い人が腑抜けにされちゃうくらいだから」
「わしだって、腑抜けにされるのはかなわん」
「うぬぼれないでよ。美人のお化けさんは年寄りなんて相手にしないわ」
「相手にされたらどうするんだや。これで結構もてちゃうんだから」
「腑抜けにされれば良いじゃないの、本望でしょう。余命いくばくも無いんだから」
「かなわんな。それで、どうすれば良いんじゃ」
「美人にそそられて心が動いた?」
「そうだ。おめえさんには、間違ってもそそられんがな」
 二人の会話を、笑いながら聞いていた総代さんが口を出した
「確かに、庵主さまが言われるように、与一さんは喧しくて逃げ出したが、腑抜けになっておらん。このお化けは若いもんには、ちょっかい出すが、年寄りは相手にしないようだに」
これは、藪蛇です。
「じゃあ、総代さんが最適だべ」
「わしか、わしはまだ現役だし、嫁も子も孫もおるで、ふぬけは困るんじゃ。礼はたっぷりだすもんで頼むわ」
総代さん、はげ頭をなでながら笑ってごまかしました。
「何が現役なんだべさ」
隣組長も大笑い、あまり緊張感はありません。

その晩、何とかなるべぇ、と爺はヒョウタンを持って与一さんの家に出かけ、酒を飲んでいるうちに寝入ってしまいました。
草木も眠る夜更けのことです。
騒がしい物音に爺は目を覚ましました。ふすまの向う、隣の部屋で宴会やっているのか、飲めや歌へのどんちゃん騒ぎが聞こえてきます。
与一さんは怖くて覗けなかったです。若い衆は二人、三人いるものだから、数の力で怖さを克服して、どんちゃん騒ぎに加わったのでしょう。
さて、どうしたものか、爺は考えました。
どうも人間臭い。人間のお化けは嫌だなと思いつつ、恐る恐るふすまを開けたのでした。
「あれっ、今日は御一人?」
隣の部屋でうら若き、美しい女御衆が五人、おっぱい露わに乱痴気騒ぎをしておりました。みんな美形です。
「あらっ、今日は爺さんよ、つまんない。女子会に爺はいらない。帰れ、帰れ、帰れ」
手をたたいての合唱になってしまいました。みんな酔っています。
このまま帰ったら子供の使いになってしまいます。粘らなければなりません。
「そう言わないで、お酌をいたしますから」
「爺に酌をされたら酒がまずくなる。小松様を連れてきて」
一番年増の亡霊女御が酔っぱらって爺に絡んで来ました。目の前でおっぱいが揺れます。「小松様でございますか」
「そうじゃ、小松少将様を連れてきて、お願い」
女御は甘えるように言いました。
「少将様?」
「知らんのか?この無礼者めが、そこに直れ成敗してくれん」
聞いたことがあります。爺は必死で記憶を辿りました。確か歴史上の人物です。
後白河法皇の祝賀で烏帽子に桜の枝、梅の枝を挿して青海波を舞い、その美しさから桜梅少将と呼ばれた維盛少将? 当時、光源氏の再来と言われた比類ないほどの美しい貴公子が思い浮かびました。
「コレモリ?」
「おのれ、呼び捨てにするとは何事ぞ。許さん」
爺は理解しました。
この女御衆は平維盛の取り巻きの亡霊のようです。暴力的ではありませんが、この色香では若い村人はひとたまりもありません。すぐに骨抜きにされてしまうでしょう。しかし、なぜ、こんな連中がここに棲みついたのかがわかりません。
「維盛さまって、富士川の戦いで、水鳥のはばたく音に、驚いて逃げ帰った平家の総大将ですか?」
爺のこの言葉がよほど気に障ったのか、五人の亡霊が髪を振り乱して、爺にとびかかってきました。亡霊とはいえ、美しく柔らかな女御衆です。爺は鼻の下をいっぱい伸ばしました。
「それにしても美しい人だったようですね」
この言葉に女御衆は、今度は泣き出しました。
「それはそれは、お美しく心憎く、懐かしきさまは、かざしの桜にぞ異ならん」
「もう一つお尋ねいたしますが、皆様方のようにお美しい方々が、なんでまた、こんなあばら屋にお越しになったのですか」
「なに、その方は知らんのか。ここより先、壇ノ浦に住まいしが、こたびの大雪で屋敷が壊されてな」
そこまで聞いて爺は、合点。女御衆に向かって手を広げて言いました。
「それでは、小松少将様にお越しいただきましょう。呪文をかけますので、しばらく、ここにお集まりいただき、お待ちください。楽しゅうございました」
女御衆は首を傾げながら年増の女御を中心にまとまりました。爺の言葉の意味を考えているようです。爺は、
「それでは女御衆の皆さん、ギャーテーギャーテーパラソウギャーテー、ひさごに入れ」
と大声で唱えました。
すると、どうでしょう、あーという声とともに女御衆は消え、静かになりました。

翌朝、与一さんの家を出ると、村中の人が集まって爺を見ています。美照尼さんもほっとした笑顔を見せています。
「何にもなかっただか」
総代さんがと聞きます。爺は答えました。
「浦の小松さんの墓が雪で壊れてしまっただに。直せば若い衆の骨抜きも治ると」
また、雪が降り始めました。道端に子供たちが作った雪ダルマがありました。そのダルマに誰がいたずらしたのか、ナンテンの赤い実を先っちょに置いた、おっぱいが付いていました。
亡霊のおっぱいもあり隠れ里
                          (終わり)

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by okasusumu | 2013-04-02 15:58
2013年 04月 02日

貧乏神と雪女

漬物のお裾分けを持って来た美照尼さんが、爺の家の縁側に座りこみ、村で仕入れてきた噂話を身振り手振りよく語り始めました。
「金吾さんは正直者で働き者、男前で、それでいて両親の資産を、そっくり引き継いだばかりの、お金持ちの独り者。だから村中の娘っ子がお熱を上げているのに相手にしないで、隣村の神社の村祭りで知り合った娘にほれ込んで嫁にもらったの。貧乏な家に育ったようだけど、それは清楚で優しく、近在では評判の美人だったわ。富も名声もそして美女まで得た金吾さんは、もう有頂天で鼻高々よ。
ところが、どうしたわけか、その嫁が病で寝込み、嵐で田畑が流される不幸続きで収入が無くなってしまったんだって。それでも、今までの蓄えで、何とかしのいで来たけれど、それも無くなり、とうとう家、屋敷を切り売りしたの。それでも良くならないで、今や、無一文、途方に暮れているんだって。まるで貧乏神に取り憑かれたみたい」
村中の噂になっているようだ。
「貧乏神ならここにもおるでよ」
美照尼さんはクワバラクワバラと笑いながら帰っていきました。

爺は漬物を頬張りながら、裏の山神様を訪ねました。神のことは神様に聞くのがいちばんです。
今日もまた、石の山神様は雪に埋もれていました。雪をどけながら、
「なあ、貧乏神という神さんは、本当におるんかい?」
と訊きました。
「そりゃあおるさ。死神、疫病神を同伴する厄介なのもおる。神仲間では嫌われ者じゃ」
爺は金吾さんは知りませんが、嫁さんがかわいそうでなりません。きっと、両親の助けになると信じて資産家に嫁入りしたのでしょう。歯を食いしばり今を我慢している嫁さんを想うと泣けてきます。
爺の心を読んだ山神様は言いました。
「爺が、ここに越して来たとき、蔵に狐の婆さんが棲んでおって、亡くなるときお前、手厚く葬っておったな」
「ああ、嫁の白狐と上手くいかないで家を出て、そこの蔵に棲んでおった。最後を看取ったのは爺だった。今際に何かを言いながら、ヒョウタンをくれた」
「あれは、力のあるヒョウタンだ」
「ヒョウタンからいろいろな物が出て、長者になる昔話? まさか、あのヒョウタンが?」
「出て来るのではなくて、吸い込むのじゃよ。使い方を聞いておらんのか。あれはな、ギャーテーギャーテーパラソウギャウテー、ひさごに入れと唱えると何でも吸い込むのじゃよ」
「出して長者なら、吸って貧乏か」
「バカタレが、助けたかったら頭を使え」

爺は、美照尼さんに金吾さんの家に連れていってもらいました。爺の知る金吾さんの家は大きな豪農の屋敷でしたが、訪ねたのは裏の納屋の方でした。
暗い土間に、直接むしろが敷かれ、そこに嫁さんが横になって、目を閉じています。
「こんな女を嫁にもらったばっかりに…」
酷い言葉をはく金吾さんを美照尼さんが叱りましたが、聞く耳をもたないでドブロクを食らい続けます。
突然、爺が、「やい、貧乏神おるんかね」と叫びました。
金吾さんはキョトンとしています。嫁さんの目から涙が溢れ出ました。自分が言われたと思ったようです。ずっと、あびせられてきた言葉だったのです。
爺は唱えました。まだ試していませんが、いちかばちです。
「貧乏神、ギャーテーギャーテーパラソウギャウテー、ひさごに入れ」
大声でした。静まった納屋の中、ドサッと貧乏神がヒョウタンに入った音がしました。爺はあわてて、ふたを閉めました。
一瞬の間があり、なんとまあ、臥せっていた嫁さんが立ち上がり働き始めたのです。生き生きとした嫁さんの顔は実に美しく、金吾さんがほれたのも無理ありません。
どうやら、これで、金吾さんも立ち直れそうですが、酷い言葉を浴びせた手前、もう嫁さんには頭が上がらないはずです。
さて、貧乏神を貰い受けてしまったのですから、困ったのは爺です。ふたを開けたら貧乏神に取り憑かれてしまいます。貧乏神の入ったヒョウタンを、桃の木の枝にぶら下げて、一晩考えることにしました。

翌日、美照尼さんからもらった漬物を、石の山神様に備えながら、雪女に合わせて欲しいと、お願いしました。
「今年のあの娘は、なぜか忙しがっておる。まあ、わしが頼めば来てくれるだろう。あしたはドラ焼きを備えろうよ、それが条件だ」
爺が了解すると、青空が一点にわかに掻き曇り、雪が降り始め一瞬であたりを雪野原に変えてしまいました。そして、豪華絢爛たる衣装の美しい顔立ちをした雪女が現れました。

「何だ、爺さんかつまらない。山神もなんと、つまらない人間の頼みを聞くものよ」
雪女がヒヤッとする冷たい蔑みの目で、見下ろしたのを逃さず、爺はヒョウタンのふたを開けました。
するとどうでしょう。雪女の衣装が見る見るうちに廃れ、そして雪が小降りになりました。雪女も恥ずかしがって、山の上へと去って行きました。

貧乏神が雪女に取りついてしまったのです。
これで、今年の雪の峠は越えたかもしれません。
「爺よ、今年の夏、水不足になったらどうするつもりだ」
山神様が心配しました。
「しかし、まあ、今年は十分すぎるほど降ったから、良いとするか。よくやった兄弟」
爺は山神様から褒められ、ヒョウタンをなでなでしながら帰っていきました。
                         (終わり)

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by okasusumu | 2013-04-02 13:45
2013年 04月 02日

財宝を掘り当てた人


五日前の真夜中のこと、足元に立つ観音様に気がつき、爺は目を覚ましました。
観音様はこうおっしゃいます。
「爺よ、町に行って駅前にある旅館の前で待ちなさい。爺の夢が向こうからやってきます」
わくわくする言葉です。
その日は朝から雪が降り続き、止みそうにありません。
「これでは、町に出かけられんな。観音様の言いつけだが、明日にしよう」

その晩、爺が眠りに落ちると再び観音様が現れ、昨夜と同じことをおっしゃいます。
「爺よ、町に行って駅前にある旅館の前で待ちなさい。爺の夢が向こうからやってきます」
その日は良く晴れていました。ところが道は雪解けでぬかるんで、まるで田んぼのようです。
「これでは町まで行くのは難儀じゃな。観音様の言いつけだが、明日にしよう」
爺は、その晩も観音様の夢を見ました。観音様に同じことを言われました。

観音様のお言葉ですが、三度も言われると、ありがたみが薄れます。しょせん夢まぼろしの夢なのか、それともお告げなのか、悩んだ爺は、裏山の山神様に相談をしました。
「あんたはアホか。観音様のことをライバルの山神に聞くな。バカたれが」
爺は、山神様の不機嫌さを、「やめとけ」と勝手に思い込み、その日も町には出かけませんでした。
午後のことです。光が雪の上ではねています。ふと、湖の方を見ると、美照尼さんの庵の手前、春になればルピナスの咲く丘で一人の男が穴を掘っています。見知らぬ人です。
「何をしてるだに」
「穴を掘ってるだに」
「それは見ればわかるだに。なんで穴なんど」
「それが…」
男は町からやって来ていました。昨夜のこと、観音様が足元に立って、長谷隠れ里の春になればルピナスが咲く丘を掘れば、幸運が舞い込むと、告げられたのだそうです。似た話に爺は「あんれまあ」とぎくりとしました。どうやら、ここがお告げの地であるのは間違いないようですが、口にはしませんでした。
掘り進めるうちに、シャベルが箱のようなものに当たりました。そして男が掘り出した箱から金銀財宝がこぼれ落ちました。まるで「花咲爺さん」のここ掘れワンワンです。正夢だったのです。
その夜、爺は観音様を待ちました。でも夜明けになっても枕元に観音様が現れることはありませんでした。興奮して眠れません。寝てないのですから夢を見ることはありません。
その日は雪になりました。爺は観音様の言葉を思い出し、雪の中、駅前に行き旅館の前に立ち、待ちました。日が落ち、暗くなっても誰もやってきません。町の人たちはうろんな目で爺を見やって、足早に遠ざかっていきます。
大損をした気分の爺は、山神様に相談しました。この神様、悩める人を突き放します。
「そう落ち込みなさんな。あんたは危険をかえりみず、夢を追う男じゃないんだよ。いい爺だが金は寄ってこん。良いではないか」
頬に冷たいものが触れました。爺は空を見上げ「また降り出したか、ほんじゃまたな」と山神様の雪囲いをしっかり直し、家に帰って行きました。
                              (おわり)

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by okasusumu | 2013-04-02 13:40
2013年 03月 02日

精霊の声

氷漬けのタヌキには家族がありました。
次の日の朝のこと、池のほとりに見知らぬ男がたたずんでいました。男は、立ったり座ったり、雪の斜面を見下ろしたり、せわしなく落ち着きがありません。
縁側で、男に気がついた爺は声をかけようと、ガラス戸に手をかけたところで、「ははーん」と思いとどまりました。
しばらくして、男は桑畑と竹やぶの間の小道を注意深く、あたりを見回しながら下っていきました。
そして、斜面が緩やかになった墓地で妻を見つけ、ドローンと姿をタヌキに戻しました。
昨夜、妻は子供たちに魚料理を振舞うからといって出かけたまま、帰って来ませんでした。
「お母さんはどうしたの」
「お父さんが嫌いだから、帰ってこないの?」
しつこく聞く子供たちを、なだめ、すかしながら夜が明けました。妻が出かける直前、よくある、夫婦のいさかいがありました。子供たちは、それを深刻に受け止めていたようです。一緒に暮らす妻の母親、婆にも白い目で見られました。
「こちらが泣きたいよ」
夜明けとともに探しに出て、妻の行きそうな道を歩いて、ここまで来ました。
妻は雪の上に横たわり、頬から血色が消え、触ると湿った状態で、体は冷たく固くなっていました。
太陽が昇り、雪が溶け始めています。男は泣きながら子供たちを呼びましたが、妻が目を覚ますことはありませんでした。
葬儀は家族だけで行いました。ひっそりした寂しい別れです。棺に、子供たちは母の好きだった物を一緒に入れ、最後に男が土をかけました。

その夜のことです。男は恐ろしい叫び声に跳ね起き、あたりを見回しました。誰もいません。横では子供たちが軽い寝息を立て眠っています。
「気のせいか」
横になり、寝ようとすると、また叫び声です。今度は、はっきりと聞こえました。胸騒ぎがして、子供たちを、ゆり起こしても、子供たちはただキョトンとするばかり、婆は哀れんでいます。
誰にも聞こえない声が、男の頭を支配し、しばらく続きましたが、叫び声は次第に弱弱しくなって行きました。
「あなた助けて…」
男の全身に寒気が走りました。
「ナムマイダ、ナムマイダ…」
震えながら、お題目を唱える男を、子供たちはただ呆然として見詰めました。

「なんだべや」婆は何もわからないまま、翌朝墓参りに行きました。なにやら墓の様子が昨日とは違います。塔婆が傾いているのです。
「あんれまあ、モグラの仕業かな…。直さなきゃなんめぇ」と男を呼んできて墓を掘らせました。
掘り進めるうちに棺が出てきました。蓋が開きそうになっています。
「モグラの奴め、こじ開けようとしおって」
男と婆で蓋をゆっくりと開けました。
すると、開くのを待ちきれないで先に首を突っ込んだ子供たちはのけぞり、頭を抱え、嘔吐したのです。続いて覗いた男も婆も腰を抜かしてしまいました。
妻の顔は苦痛にゆがみ、指も手も足も体中が血に染まり、爪はありません。蓋の内側にはこじ開けようとした爪の跡が深く刻まれていました。
土手の上の爺は、なーんも知らんで、狸たちの動きにしきりに首を傾げていました         (おわり)
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by okasusumu | 2013-03-02 13:25
2013年 02月 02日

化け物退治


秋祭りのドンドーン、ドンドンと威勢のよい太鼓の音が聞こえてきます。
鎮守の森には豊作を祝うのぼりが風にはためいて賑やかです。
けれども、いつも池の中で優雅にすごす鯉たちに元気がありません。むっつりとして、押し黙っています。
夜が開け、明るくなるたびに子供たちが少なくなっています。昨夜も「油断してはダメよ」と言い聞かせたばかりです。
一番元気に返事をした子の姿がこの朝、見当たりません。
原因は寝静まった夜中に忍び寄り、こっそり手をいれ子供たちをさらってゆく、恐ろしい化け物です。
池中の鯉が寄り合いをしましたが、いつも、スタイルや化粧ばかり考えている鯉たちに良い知恵は出ません。ある鯉が言いました。
「化け物に鈴をつけたら良い」
化け物が近づくのがわかれば用心できるからです。出来ない相談です。鈴付に挑戦できる勇気ある鯉などどこにもいないからです。みんな口先ばかりで調子が良いのです。
「だったらカエルさんに教えてもらったら?」
隅っこで小さくなっていたブチが言いました。
ブチは体が小さく、いろんな色が混ざって醜いと、いつもいじめられ、無視されて、遊び相手はカエルやイモリばかりでした。
「カエルさんなら、化け物が近づくのが、わかるから」
「ふん」
みんなはブチの意見など聞きたくないのですが、ほかに自分たちを守る知恵がありません。
「やってみるか」
長老の一言で寄り合いは終わりました。

美しく、優雅で上品な鯉はカエルを不恰好な下品でのろまな変な奴と見下しています。
カエルもそんな鯉たちを、思い込みの激しい世間知らずと、いつもは相手にしませんでしたが友達のブチに頼まれては、いやとは言えません。その夜から、化け物が近づくと大きな声で「ケロケロ」と大きな声で危険を知らせました。
ブチの作戦は成功しました。
池に来ても収穫のない日が続いた化け物は次第に来なくなりました。うるさいカエルにもうんざりしたのです。
これで鯉たちは一安心、池の中に平和が訪れて子供たちは次第に大きくなってゆきました。
池の横の桃の葉がいろづき、池の水面にひらひらと静かに散る季節になりました。いったん苦しみが去ると、つらかった思いを、鯉たちはきれいに忘れてしまいました。
カエルたちはブチに別れを告げて去り、静かな夜が訪れました。
そして、再び化け物がやってきました。子供が日に日に減ってゆきます。
また寄り合いをして、対策を考えましたが、良い考えは出てきません。でも、ブチに任せることだけは決まりました。長老は、
「美しさ、かわいさでよそ様を楽しませることが出来ないお前の使命だ」というのです。ブチはじっとたえました。
秋はまたたく間に行き、池に薄氷がはりました。これからは氷が張っては、溶けるを繰りかえし、だんだん寒くなっていきます。おめかしに余念がない鯉たちは、水面に浮かぶ紅葉をぬって泳ぎます。とても、優雅です。ブチは水面に落ちてきた枯葉をせっせと一箇所に集めました。

雪が降り、冬がやってきました。ブチが集めた枯葉の上にも雪が積もり、島のようになりました。暖かい日、雪は溶け、島は氷の塊になりました。
この間にも子供たちは化け物に襲われ、ブチは「役立たず、お前が食べられてしまえ」とののしられ続けました。氷の塊になった島に雪が積もり、島はだんだん大きくなり、とうとう池の淵と繋がりました。
池の水面に大きなお月様が浮かぶある夜のことです。ブチは優雅に泳ぎ回りました。ほかの鯉たちは水の冷たさに身動きが取れません。
この日も散々ののしられました。誰もかばってくれません。
「もうどうでもいいや」
池のお月様が、ブチの泳ぎで揺らめいています。その時、ブチは忍び寄る化け物を意識していました。化け物がブチを狙っています。
何を思ったか、島に近づいたブチは、化け物の前で飛び跳ねました。意表をつかれた化け物は、ブチを捕まえるようと、とっさに手を伸ばし、島に足をかけました。化け物の爪が一瞬月の光に怪しくひかり、そしてブチの体に突き刺さりました。
ブチが悲鳴を上げた瞬間、化け物も大きな声をはりあげました。島が割れ、化け物は池の中に落ちたのです。
化け物は狸でした。池の水はつめたく、狸はもがく事もなく、氷付けになってしまいました。
いまわしい夜が明け、何事もなかったように鯉たちは、明るい陽射しの中、優雅に泳ぎまわります。でも、ブチの姿はどこにも見当たりません。   

                      (おわり)

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by okasusumu | 2013-02-02 13:05
2013年 01月 07日

すぐそこの爺

押し詰まって今日は大みそか。
夜来の雪は明け方に止んでいましたが、この時季には珍しいほどに降り積もり、道も田んぼも美しく覆い隠し、村中が雪に埋もれています。

村はずれに暮らす爺の家はひっそりとしていました。
貧しい爺におせちを用意する金はありません。
「せめて餅でもあれば正月を祝えるのだが。まあいいか、いつものことだ」
せめて、暖かくして正月を迎えようと爺は背負子を背に薪を拾いに裏山に入って行きました。
「あれあれ、こんなになってしまって」
そこは、シカやタヌキの足跡がしるされた楢の木の下で、根元に雪が吹き寄せられていました。
「狸公のやつめ、見て見ぬふりをしおって…」
爺が雪をかき分けると、石の山神様が現れました。
「寒かっただろうに」
神さまの雪を払った爺は、刈ってきたばかりの、わずかな柴で雪囲いを造り、「すぐそこの爺だ」と呟きながら、この1年を感謝して帰って行きました。
「冷えると思ったら、又降り始めたか」
その晩のこと、寺の鐘の音で爺は目を覚ましました。
「きれいに聞こえるわい。どうやら雪はやんだようだ。何とかこの1年つつがなく暮らせた。来年も良い年でありますように」
眠ろうと目をつぶると、不思議な歌声がだんだん近づいて来ました。
「すぐそこの、爺のお家はどこじゃろな…」
今時分、訪ねて来る人はいません。爺は寒さをこらえて、雨戸の隙間から外の様子をのぞいてみると、雪明りの中、あの山神様が金銀財宝を積んだそりを引いて爺の家に向かって来ます。
「すぐそこの、爺のお家はどこじゃろな…」
不思議な歌は爺の家の前で止まり、しばらくしてまた遠ざかって行きました。
眠りについた爺は、金銀財宝を手にし、餅をたらふく食べた夢を見ました。

山の端に今年初めてのお日さまが昇り、夜が明けました。
何事もなかったように山神様は木の下にたたずんでいました。不思議なことに、そこから、そりの跡が爺の家に向かって伸びています。
神様には、「すぐそこの家の爺」だけでは、どこの爺だか分らなかったのです。村は爺婆ばかりでした。
                          (おわり)

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by okasusumu | 2013-01-07 12:58
2011年 09月 19日

他人に勧めて笑われた②

塩風呂

もう一つ風呂の話、今は直っているが、せき込みが激しい時があった。真夜中の事が多く、昼間医者に見てもらっても、異常なしで終わってしまう。結局、新橋のアレルギーセンターにしばらく通い、対処療法の吸引式の気管支拡張剤で夜の咳を抑えていた。あるとき、山陰の塩分濃度の強い温泉を旅番組が紹介していた。穴倉のような温泉でその蒸気を吸うことがこの病に良いらしいと旅館の主人が話している。即実行である。と言って山陰まで出かけるのでなく、風呂に塩を入れるわけでもない。風呂釜が塩分で錆びるのは避けなければならない。
 実行したのは、スプレーの水を4~5%の塩分濃度にして、風呂につかり、顔にそのスプレー水をひたすらかけた。そして今、そんな病気であったことすら忘れてしまっているがその塩分濃度の水を洗面器に作り、そこに浸したタオルで体中を噴くことにしている。これで山陰の何とか温泉に言った気分で肩こりも腰痛もなし、体はいつまでもポカポカ温かい。
 人間だって海に誕生したシアノバクテリアが元になっている。海の恩恵、塩の効能を見過ごしてはいけないのだ。
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by okasusumu | 2011-09-19 14:22