2013年 01月 07日
押し詰まって今日は大みそか。 夜来の雪は明け方に止んでいましたが、この時季には珍しいほどに降り積もり、道も田んぼも美しく覆い隠し、村中が雪に埋もれています。 村はずれに暮らす爺の家はひっそりとしていました。 貧しい爺におせちを用意する金はありません。 「せめて餅でもあれば正月を祝えるのだが。まあいいか、いつものことだ」 せめて、暖かくして正月を迎えようと爺は背負子を背に薪を拾いに裏山に入って行きました。 「あれあれ、こんなになってしまって」 そこは、シカやタヌキの足跡がしるされた楢の木の下で、根元に雪が吹き寄せられていました。 「狸公のやつめ、見て見ぬふりをしおって…」 爺が雪をかき分けると、石の山神様が現れました。 「寒かっただろうに」 神さまの雪を払った爺は、刈ってきたばかりの、わずかな柴で雪囲いを造り、「すぐそこの爺だ」と呟きながら、この1年を感謝して帰って行きました。 「冷えると思ったら、又降り始めたか」 その晩のこと、寺の鐘の音で爺は目を覚ましました。 「きれいに聞こえるわい。どうやら雪はやんだようだ。何とかこの1年つつがなく暮らせた。来年も良い年でありますように」 眠ろうと目をつぶると、不思議な歌声がだんだん近づいて来ました。 「すぐそこの、爺のお家はどこじゃろな…」 今時分、訪ねて来る人はいません。爺は寒さをこらえて、雨戸の隙間から外の様子をのぞいてみると、雪明りの中、あの山神様が金銀財宝を積んだそりを引いて爺の家に向かって来ます。 「すぐそこの、爺のお家はどこじゃろな…」 不思議な歌は爺の家の前で止まり、しばらくしてまた遠ざかって行きました。 眠りについた爺は、金銀財宝を手にし、餅をたらふく食べた夢を見ました。 山の端に今年初めてのお日さまが昇り、夜が明けました。 何事もなかったように山神様は木の下にたたずんでいました。不思議なことに、そこから、そりの跡が爺の家に向かって伸びています。 神様には、「すぐそこの家の爺」だけでは、どこの爺だか分らなかったのです。村は爺婆ばかりでした。 (おわり) 雪が積もったまま正月を迎えた記憶はないと情報誌を届けてくれた農業委員の人が言っていた。年末28日の夕方降り始めた雪は明け方まで降り続き、大雪になった。子供のころから雪の朝の目覚めは早く、誰よりも先に外に出て雪に自分の足跡を印して歩いた。この朝も同じように飛び出したが、膝上まで積もった中を歩くのは穂高登山以来、すぐに疲れが出た。裏山に入り、覆われていた山神様の雪を払いながら思い出したのが笠地蔵だった。「笠をあげたお爺さん」にも、「すぐそこの爺」にも見返りを求めるいやらしさはない。しかし、作者にも話を伝える人にも物欲しい心が隠れている。相手が畏れ敬う神仏だからだろうか。
by okasusumu
| 2013-01-07 12:58
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アバウト
梅、桜。桃の木の花の饗宴が終わると待っていたように凍土だった大地が芽吹きだす。数年前、雑草の中に数本あった花だが、背の高い草を採ると、増えだした。今やルピナスの丘だ。下の田に水が入る頃は美しい。 by okasusumu カテゴリ
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